捕食性の愛(坂風/風坂)

捕食性の愛【坂上君】

「あっ」
突然目の前が真っ暗になったかと思うと同時に強烈な生臭さに呑み込まれた。
ばきり、ごくり、みしみし、と僕の全身の骨を折りながらゆっくりと咀嚼されて、小さくて湿っていてどこか温かい空間に僕はすっかり詰め込まれてしまった。
「坂上君」
うっとりとした甘い甘い風間さんのくぐもった声。果たして今僕の耳がどうなっているのかは分からないがなぜか聞こえる。
「坂上君」
返事をしたかったが僕の口がどこでどうなっているのかわからない。きっと返さなくていい呼び掛けであっても、答えてあげれば彼は悦ぶ筈なのに。
ぐに、ぐに、と厚い皮越しに押される感覚がして、恐らく風間さんが自分のお腹を撫でているんだろうなとぼんやり考える。
元の形を保っていない僕の形を確かめるように指で辿る仕草に、満足そうに笑う風間さんの顔を思い浮かべた。
「ごめんね、君をもっと愛したくなっちゃって」
大丈夫ですよ、と返したかったが声にはならない。
行為中。あるいは何でもないひと時。時折僕の顔をじっと見つめては目を逸らして照れくさそうに眉を顰めていたのを知っていますから。
何度も何度もお腹越しに僕を撫でていく風間さんの大きな両手に、風間さんにとって最上の愛情表現を今僕は受けているのだと確信した。
 

捕食性の愛【風間さん】

キスをしてきた坂上君の表情があまりに可愛かったから、思わず彼を食べてしまった。
潰した内臓の味も、骨の砕ける音も、洗濯洗剤と汗の香りがする制服の匂いも、全てが素晴らしくて愛おしい。
決して大きくはなかった坂上君をもっと小さくしてお腹に収めると、途方も無い幸福感に包まれた。
ああ、坂上君はなんて可愛いのだろう。
「坂上君」
僕が今坂上君をとっても愛していることを確かめたくて、名前を呼んであげながら変わり果てた坂上君の形を確認する。
元の姿とは似ても似つかないけれど、僕にはどこに何があるのか睫毛の一本だって分かる。だって僕は君をこんなにも愛しているんだもの。
「ごめんね、君をもっと愛したくなっちゃって」
でもこんな僕の身勝手な行動もきっと君にはお見通しだった筈さ。
君を食べる寸前の全てを諦めて受け入れることを悟ったあの仄暗い瞳、僕は見逃しちゃいないよ。
ああ、優しくて可愛い可愛い僕だけの坂上君。
愛しているよ。